海外遠征を振り返る
移転された
有芝まはる殿下がネタを振っておられるので食いつく。
殿下執務室2.0 β1: 2006年の海外遠征を振り返る
まぁ有芝の拠って立つところからすればある程度それも致し方ないので(少なくともディープが現役である限りは、有芝は「ディープの語り部」であることを免れない気がするので)、出来れば他の誰かに色々複眼的な視点を含むようなエントリをこのお題で期待してみたいところではあるかな。
ということらしいので非力を承知でちょっとやってみるかなと。
ユートピア(GII Godolphin Mile)
とりあえず、Godolphinも買ったんならちゃんと使えと。
ま、取り巻く環境が変わってしまう訳ですしこういった移籍をして、レースに使うというのは困難が多いというのは、欧州→北米、南米→北米という移籍でも見受けられる事態ではあります。その上で明らかに引退後の種牡馬入りを前提とした価格で購入した以上、下手にレースに使うというわけにも行かなかったとはなりますかね。今年ちゃんと使えていれば来年から種牡馬入りだったんだろうなと思われますが、移籍して1戦も出来なかったのでは、現役続行も仕方ないかなと思われる部分はあるかな。どこで走らせるかというのも難しいところかとは思われますが。
ハーツクライ(GI Dubai Sheema Classic、King George)
今年はこの2戦とJCの3戦のみというのはどう考えても不満。レースに対して慎重になりすぎているとは思います。一方でJC前後の状況を鑑みるにそうせざるを得ない部分があったにはあったかとも。Sheema Classicに参戦する欧州馬の状態はシーズン初戦の遠征であるからして推して知るべしというものではあろうかと思うのですが、それでも直線で他馬を寄せ付けない圧勝を演じたことにけちがつくわけではありません。その後キングジョージに参戦して惜しい3着。言うまでも無く欧州クラシックディスタンスの頂点として凱旋門賞に並び立つこのレースに三強の一角として参戦し、それに相応しいパフォーマンスを示したことも日本競馬の実力を世界に知らしめることになったのは間違いないでしょう。
コスモバルク(GI Singapore Airline's International)
コスモバルクは日本でGIを走る限りは良くいる善戦屋としての立場を超える事は出来なかったでしょう。そういうクラスの競走馬が、海外のGIでもレベルとしてやや落ちるレースを狙い済まして参戦するならば勝機は十分にあるということを示したとは言えるか。この種の機会を得るべき日本の競走馬たちはこれまでにも数多く存在していました。しかし、その挑戦を実現させることが出来たのはほんの一握りでした。この結果を手にしたコスモバルクは賞賛されるべきだが、これをコスモバルクだけのものに留めてはいけないということにはなります。その意味では来年コスモバルクのような挑戦を敢行する陣営が現れるかどうかは注目すべきで、アドマイヤムーンがその候補になるのではないかなと。
ディープインパクト(GI Prix de l'Arc de Triomphe)
今年の日本馬の海外遠征とはキングジョージと凱旋門賞という欧州を代表するクラシックディスタンスのレースに出走が叶い、そしてそのどちらのレースでも有力馬として扱われたということに尽きるのではなかろうか。ハーツクライとディープインパクトはそこでその評価に相応しいパフォーマンスを見せたのだし、この欧州トップのレースが既に手を伸ばせば届くところにあるということを改めて思わせてくれたことは大きい。
結果的に薬物検出で失格となったわけだが、検出された物質は競争能力の向上には寄与しない。3位入線という事実はそのままに受け取ってよいと考えます。
更にディープインパクトの素晴らしかったところは海外遠征のその前後で破綻を見せていないということも挙げられます。トップクラスの馬がそのピークを維持する事が特に困難なサンデーサイレンス産駒にあって、2年間頂点を極めつづけたということは頭抜けた実績であり、それが海外遠征を挟んでのものであればなおさらです。スペシャルウィークですら軽いスランプを経験し、ゼンノロブロイは良い終わりを得なかったということを考えればディープインパクトが如何に優れているかの一端が垣間見えるでしょう。
アサヒライジング(GI American Oaks Invitational)
今年で3年連続日本馬が挑戦したAmerican Oaks Invt.は3歳牝馬にとって優駿牝馬後の選択肢に定着したとも言えます。ダンスインザムード、シーザリオに継いだ今年のアサヒライジングは先駆者2頭とは異なり春のクラシックを勝てませんでしたが、このレースで2着に入りました。このような世代限定戦で毎年のように結果を残すということは日本競馬全体のレベル向上を示す一例としてよいのではないでしょうか。
ダンスインザムード(GIII CashCall Invitational、GI Hong Kong Mile)
Hollywood Parkは好きだが、Sha-Tinが大嫌いな社台のお嬢様。
今年は安田記念をBullish Luckに勝たれ、香港ではダンスインザムードが惨敗とマイルでやられているが、昨年のマイルはハットトリックが制しているのだし、ダンスインザムードについては今年は大丈夫かと思ったがやっぱりダメだったという程度ではある。日本と香港のマイル路線はまず拮抗していると言ってよいだろうし、そうなれば後は安定して実力を発揮できる馬かどうかという個体の問題に帰していくとは思われる。
デルタブルース、ポップロック(GI Caulfield C、Melbourne C)
昨年惨敗したアイポッパーの借りを一年で返したMelbourne Cでのフィニッシュは今年打ち立てられた最大のマイルストーンです。既に競馬の中心が短距離にシフトして久しいオーストラリア競馬であり、今年の出走メンバーにオーストラリアのチャンピオンステイヤーとして彼らを迎え撃つ馬がいなかったとはいえ、Melbourne Cの歴史と伝統は別格。その勝ち馬リストに日本産の日本調教馬の名が刻まれたことの意義はこれまでに日本馬が海外で手にしてきたどんな勲章よりも大きなものではないか。
ソングオブウインド、アドマイヤメイン(GI Hong Kong Vase)
菊花賞からJCにも有馬にも向かないで香港Vaseという選択は昨年のシックスセンスもそうだったが、これは国内に手のつけられない馬がいるという事情によるとしても良いでしょう。基本的に香港Vaseは国内でそれらのGIを取れる見込みの無い馬による遠征であります(と言えばステイゴールドに起こられるかも知れんが)。ソングオブウインドはレース後故障判明(レース前から気にしていたとの話もあるくらい)であるならばこの結果によってどうのということは出来ない。アドマイヤメインはペースを外したということになるか。
アドマイヤムーン、ディアデラノビア(GI Hong Kong Cup)
Pride相手に写真判定に持ち込む2着ならばアドマイヤムーンの強さは本物としてよいでしょう。相手は今年の欧州ナンバー1であります。ディアデラノビアに関してはもとよりこのレースでどこまで通用するかという話でしかなく、勝負にならなかったと言って悲観することは無いでしょう。
薬物
今年はディープインパクトが引っかかったため日本で話題になったということではありますが、ディープインパクトだけがそうなのではないということでもあります。
GIに関るところではBrass HatもDubai World Cup2着を取り消されているし、Takeover Targetは香港Sprintに出走できなかった。また、北米リーディングトレーナーのPletcher師も管理馬から出走後に薬物が検出されたとして調教停止処分を受けることが濃厚になりつつあります。
しかしこれらの事件で検出される薬物は競技能力を向上させることを目的としたいわゆる「ドーピング」には該当しないものであるということは認識されていなければなりません。ディープインパクトの件が発覚した時点でヒトの競技でのアンチドーピングに絡めてあれこれという意見が散見されたのですが、根本の考え方が違うのでそれは間違い。一方で欧州競馬は潔癖すぎないかという事例もあるようで、1972さまに拠れば(*1)フランスのトロット競馬で製造工場のミスによって混入したビタミンCが問題視されて、結果失格とされるという事件もあった模様。これなどはビタミンCは通常検出されても問題にならないはずの物質であるわけでして、過剰反応するにも程があるというレベルかとは思われます。飼料から多めにビタミンCを摂らせた場合とどう違いが出るのかと。
(*1)
あさ◎コラム: プレッチャー師、調教師停止処分が濃厚にの後段
遠征期間
ハーツクライにしろ、ディープインパクトにせよレース出走までの滞在期間はまだ長い。
サラブnetのコラムにおいて野元賢一氏がディープインパクトの遠征をエルコンドルパサーのそれと比較して
「退行」であると断じているが、これは全く逆である。私に言わせれば、エルコンドルパサーのような特殊な前例をいつまでも崇め奉っていてはダメとなる。そもそもあの年のエルコンドルパサーを日本調教馬と言えたものか。籍だけJRAの二ノ宮厩舎に置いてあるならば、それを根拠に日本調教馬と強弁するのか?
また野元氏は
上記コラムの続編において
斤量差に不平を言う前に、3歳時に遠征することを考慮すべきである。「日本の無敗の三冠」と「非欧州馬初の凱旋門賞制覇」を量りにかければ、答えはおのずと明らかだろう。なぜ、後者が選択されなかったかは知るよしもないが、三冠を待望する競馬界の空気と、当事者の眼前の利益が一致していたことは指摘できる。
(10/16)敗戦から何をくみ取るか(2) 凱旋門賞から
という指摘をなされているが、それだけの価値を日本の三冠体系がいまだ有しており、だからこそデルタブルースが出現しているのであると反論しておきたい。昨年ディープインパクトが本家におけるNashwanの業を背負う選択を為したならば、それを起点として日本においてクラシック三冠が保持していた権威は霧散したであろうし、菊花賞は多くのSt. Legerの運命を追うことになったと思われる。
欧州域外の馬が、目に見える犠牲を払わずに勝ちに行くのは、無理な話だったと言わざるを得ない。
同上
特別なことをしなければ勝てないというのではまだまだなのである。そしてディープインパクトはその種の特別な手を打たずとも凱旋門賞で勝負になった馬であるという事を誇りに思えば良いのだ。ハーツクライにしてもそこまでの手を尽くさずともキングジョージで勝負が出来たのだからどちらもエルコンドルパサーの頃と比べると「進歩」している。しかしこれはまだその途上であるに過ぎない。その最終到達目標は数年前に佐々木師がタップダンスシチーで目論んだ短期間の遠征であるはずだ。JCを走りに来る外国馬のほとんどは2週間前程度になってから来日する。彼らは1ヶ月、2ヶ月もかけて現地で調整などしない。現地のレースに慣らせるために本番前に一度使うならばともかく、長期間の滞在はまだ海外遠征が特別なものとなっている証左であろう。海外のレースに出走することが特別なことでないという認識が共通のものになったときにこそ、日本の競馬は真に国際化を達成したと言えようし、その状態で勝ち負けを繰り返すことが出来たときこそ日本競馬が欧米に肩を並べたと言う事ができる。
そしてアメリカ西海岸Hollywoodへの遠征でそれは実現されているとも言える。次はこのやり方で欧州を取りに行かなければならない。
有馬記念には香港を使ったアドマイヤメイン、アドマイヤムーンが登録したが、このように遠征後すぐでも馬の状態が許せばレースに使うという姿勢を見せるのも当たり前のことであると認識されていけば良いだろう。
海外からの遠征
安田記念に香港から3騎。香港のマイル馬のレベルを知らしめたということにはなるか。
スプリンターズSには4騎。Global Sprint Challangeはオセアニアの馬にとってちょうど良い開催時期である反面、日本、イギリスから参戦するにはやや難しい時期というのはあると思われる。それでもこのシリーズがあったからこそイギリスからLes Arcs参戦となったわけである。日本のスプリンターに駒が無いというのも事実ながらシリーズの前半で存在感を持ち得ない現状には問題があるかと思われる。
エリザベス女王杯には遠征馬無しという事態になった。今年は牝馬の活躍が例年以上に目立った欧州競馬シーンから1頭もつれて来れなかった事はJRAの失態となるだろう。
昨年がゼロだったマイルCSにはCourt Masterpieceが参戦している。引退後は日本で種牡馬という事情があったにせよ海外馬がゼロにならなかったのは良しとすべきか。
JCダートにも遠征馬無し。どのクラスの馬を狙って呼ぶかというのは難しいところではあろうが。
JCは2頭ながらもOuija Board参戦なら文句は出ない。この素晴らしき牝馬は残念なことに古傷を再発させて香港の引退レースに出られなかったわけだが、当たり前のように世界各地を転戦した陣営を見習うべきところはあるのではないかな。