短編集「ビースト&ビースト!!」のあとがきにて作者本人が述べているように、ガンガンに連載されたドラゴンクエスト4コマ劇場がデビューと思われがちではあるが、本来のデビュー作は「プロブレム・ハウス」という読み切りであった。しかし、その名が広く知られるようになったのが4コママンガ劇場における「イミテーションのおどる宝石」であったのもまた間違いないところ。また、正式なデビュー前にも読者投稿としてドラクエ4コマを描いていた。これは「浅野りん」というペンネームでこそないが、場所と名前、それに何よりその絵柄を考えれば本人であることは疑いないと思われる。
当時Gファンタジーで「聖戦記エルナサーガ」を連載していた堤抄子先生のアシスタントをしながら、読み切りを主にフレッシュガンガンに掲載していた。「エルナサーガ」のアシスタントとしてはコミックの2巻にアシスタントとして名前が確認でき(エルナサーガは13巻あるが、アシスタントの名前が載ってるのは2巻だけ)、また、4巻にはあとがきページに仕事場の秘密浅野編や、4コママンガを描いている(エルナサーガのコミックはいずれも旧版で、新装版では巻数がずれる上おまけページは削られている)。フレッシュガンガンの読み切りで人気を得て、ガンガン本誌では「ワンダープロジェクトJ」のコミカライズを担当した。この作品は短編集には収録されておらず、アンソロジーに収録されている。この「ワンダープロジェクトJ ピーノの大冒険」が掲載されたのが1995年4月号のことであり、「CHOKO ビースト!!」の連載開始が1995年7月号である。
そしてついにガンガン本誌での連載を獲得した「CHOKO ビースト!!」はフレッシュガンガンで2度読みきりの形で掲載され、その後本誌連載に当たって一部設定を変更されたものである。主人公が変更され、高校生という設定だった政志から中学生の京太になった。これは当時の担当がガンガンの読者層に近い主人公をという提案をしたためとされており、この時代(1995年頃)のガンガンの主な読者層は中学生であったということが知れる。
精神獣(精神力を使って作り出された獣)を使う少女(というより幼児でしたが)蝶子とそれを押し付けられた少年・京太が主人公。力の制御が不安定な蝶子に成長を促すという目的が一応存在していたが、基本は勢いのあるスラップスティックコメディであり、一癖ある登場人物が飽きさせない理由だったのかなという気もしている。目的である蝶子の精神的成長は主に京太の空回りに終わることが多く、ドタバタのコメディ色を強く見せていた。もう一つの話の筋であった蝶子を狙うはぐれものの里の話に片をつけたところで終了してしまったことから、やや中途半端な印象も受けるのですが、あまり長く連載を続けているときつい構成でもあったかなとも思う。あのくらいが丁度よかったといえるのではないだろうか。
浅野りん作品の特徴は日常にちょっと不思議を加味したスラップスティックであり、主人公は大抵それに振り回される役割を負う。「CHOKO ビースト!!」における蝶子とガァ、「PON!とキマイラ」におけるシアンとポン太、「天外レトロジカル」におけるあんじゅと朱辿がそうであるし、読み切りでも「K2KINDS」、「プロブレム・ハウス」はそのパターンである。
「CHOKO ビースト!!」は4巻で連載が終了している事からもガンガンでよくあったパターンを乗り越えられないままに終わったと見ることも出来る。月刊誌であるガンガンでは連載にしておおよそ2年、コミックスにして3、4巻あたりに一つの大きな山が出来る傾向にあり、これを乗り越えて長期連載となるパターンが多く存在する(例を挙げるならばZ MANやTWIN SIGNALである)のだが、「CHOKO ビースト!!」はそうはならなかった。しかしこれと同時期にギャグ王で「平成バンパイア」が連載されており、当時エニックスの中で一定の人気を掴んでいた事は間違いない。
ギャグ王に連載されていた「平成バンパイア」は読者投票によって連載作品を決定する企画から出た作品で4コマをベースにしたコメディであった。なおこの「平成バンパイア」が同企画の初代連載作品であり、二代目の連載作品に東まゆみのナイトウォーカーがある。「平成バンパイア」はギャグ王に連載されていた事もあって分量も少なくストーリーにも見るべきものは無いが、浅野りんの作品の一つの特徴である収まるところにはきっちりと収まって終わっている。当時のギャグ王によくあったようにクライマックスで4コマから普通のショートへと移行しており、まとめて読むとちょっと違和感があるかもしれない。後にガンガンWINGで「平成バンパイアの逆襲」というタイトルで読みきりが掲載され、コミックとしてもリリースされている。
「PON!とキマイラ」は「CHOKO ビースト!!」終了後間をおかずに連載が開始されている。「PON!とキマイラ」は神獣ポン太を巡るお話で登場人物の癖が強くなっている。これは好みの分かれるところではあろうかと思うが、概ね好評を博していたのではないかなと思う。特に強烈なキャラだったのが乙部清丸。「命の限り好き勝手」という素晴らしい性格をしているこのキャラはいくつもの名セリフを残している。
基本は八満とシアンを中心としたスラップスティックであったが、6巻の後半を脇役キャラのシナリオのまとめに当てて、最後の7巻全体でラストストーリーをやるという形は「CHOKO ビースト!!」とほぼ同じ形。物語を解決するというのではなくて、区切りの良いところでお終いにしてしまうという印象はあって、特にこの「PON!とキマイラ」はその連載終了の時期が問題になる作品でもあるが、件のBLADEへの離脱騒動とは関係なく予定されていた終幕なのだと信じたい。
「パンゲア」は現代もののコメディを得意としていた作者が挑んだファンタジー作品であり、WINGに読み切りの形で掲載された「HEAVEN'S ROAD」がそのパイロット版にあたる。舞台をファンタジーとしながらもどことなく日常感のあるストーリーの進め方は浅野りんの作品の特徴であると言うべきであるだろう。こちらは「PON!とキマイラ」とは異なりまともに離脱騒動の影響を受けての連載終了となり、現在はその続編が「パンゲア・エゼル」としてコミックBLADE MASAMUNEにて連載されている。しかし雑誌自体が隔月刊のうえ休載もあったためなかなか話が進まない。
なお、エニックスからは2冊の短編集が出ており、「CHOKO ビースト!!」のパイロット版を始め初期のフレッシュガンガン掲載作を集めたのが「ビースト&ビースト」であり、ギャグ王連載だった「平成バンパイア」を中心に構成されたのが、「平成バンパイアの逆襲」である。「ビースト&ビースト!!」の頃からこの作者の描く女性キャラは強いよねというのがはっきりと出ている。「K2KINDS」とかかなり好きですよ。「平成バンパイアの逆襲」には、平成バンパイアシリーズと、その後にギャグ王に掲載された読みきり「お菓子な野郎」とステンシルに掲載された「恋してなんぼ」が収録されている。
「PON!とキマイラ」の連載終了後はコミックBLADEに掲載の場を移して「天外レトロジカル」を連載。途中で突発的な休載がありながらもコミック7巻分の連載を無事に終了している。