ガンガンが創刊した当初は、外部から作家を連れてきたり、ドラクエ4コマ出身の作家が目立ったが、このTWIN SIGNALの作者大清水さちはガンガンのマンガ賞の出身として連載を獲得した最初の作家となった。
ガンガン創刊1周年のときに出された最初の増刊であるフレッシュガンガンに載ったのが、本編のパイロット版とでも位置付けられるべき作品であり、その年の12月号から本誌で連載が開始された。
ヒューマンフォームロボット・シグナルは開発者である音井信之助の孫信彦の兄として設定されていたが、完成前のちょっとしたトラブルによって、信彦のくしゃみによって変形するバグを抱えてしまう。初期はこのシグナルとちびシグナル、大きな方のシグナルはホラーが苦手、を中心として舞台であるトッカリタウンでのスラップスティック的なコメディマンガであったが、コミックス3巻のラストでそれまでの設定の一部をなかったことにされて、A-ナンバーズとかアトランダムなどの設定が付け加えられた。
このため、それまでの設定はどこへやらシグナルは世界最高のロボット工学者である音井教授が作り上げた最新型ロボットになるし、舞台はトッカリタウンを離れてしまうしとまるで別の作品を読んでいるかのような印象を受けた。特にきつかったのは同じくA-ナンバーズのエララの登場当初の設定がまるっきり矛盾してしまった事である。その上、海上都市リュケイオンに舞台を移したロボット博覧会編からはコメディと同時にバトルものになってしまった。リアルタイムで連載を追いかけてこの変化に戸惑った事はいうまでも無かったが、しかしこの路線変更は大当たりであり、結果的にここを乗り切ったことで19巻にも及ぶ長期連載を実現する事が出来たのであろう。
という事情はあるのだが、個人的にはガンガンに連載された作品の中ではダントツに好きな作品なのである。最初の頃のSFコメディ的な面に惹かれたのだが、路線変更後もそれはそれとして楽しむ事が出来た。人気作になった事でエニックス得意のメディア展開が行われる事になりコミックCD、ノベライズ、ムック、さらにはOVAまで製作されるという恵まれた待遇を受けることになった。その一例としてはポスターサイズ画集というものが挙げられよう。非常に豪華なこの画集は当時エニックスの人気3作品という形でこのTWIN SIGNALの大清水さちとレヴァリアースの夜麻みゆき、守って守護月天の桜野みねねというラインナップであった。
しかし巻数が二桁に入る頃からその勢いに翳りがみられるようになる。一つには話が複雑になってとっつきにくくなった事と、もう一つは絵柄の変化に原因があったのだろう。どうも今でもこの作品が好きという人間はこの絵柄の変化を受け付けなかったものが多く、かくいう私もその一人である。カラー原稿がCGになったのが最も受け付けられない変化ではあった。また話がとっつきにくくなった原因はもともとロボットがどうこうという設定の上にあったマンガなので、雑誌読者でもそれなりに追いかけていないと分かりにくくなるところがあった上に、話の展開によって新規読者を獲得できない状態になってしまったのが悔やまれる。この作品に限っては、ガンガンに連載された他の作品とは異なり、月2回刊行時にも勢いを伸ばす事が出来た作品であったと言えるのだが、その反面、ガンガンが再び月刊に戻ったあたりから失速が始まったように思える。最後はGファンタジーへと連載の場を移したものの、そこから這い上がる事のないまま終了した。
Dr.クエーサー編ともいうべき後半はもっと掘り下げていく事が出来たなら良い作品になれたのかもしれない(無論作者にそれだけの技量があったとしてではあるが)。しかし、それだけの余裕を与えられることなく終わってしまったのは残念な事であった。どことなく虚無感が漂うDr.クエーサーは悪役として描かれてはいるものの、その立ち位置などから興味深いキャラクターであった。最後までその内面を理解されないまま悪役として倒されたのは良い終わり方とは言えないものである。結局、あの世界において次代を担うべき音井正信はDr.クエーサーを理解しなかったし、それはシグナルらAナンバーズも同じである。Dr.クエーサーと同世代に当たる音井信之助たちと、正信のDr.クエーサーへの対応は最初から最後までズレたままであった。
正信がDr.クエーサーの懸念を理解できなかったのは、少年期に身近に兄としてカルマというロボットが存在したからであり、それが極めて特殊な状況であるということを認識できなかったからと言えるだろう。そして正信の子である信彦も兄シグナルという形でなぞってしまったし、信彦の母みのるもロボットプログラムであるコードやエモーションを兄、姉として育っているという相似系であったという部分が大きい。マリエルにとってのライデンも同じであり、斯様に特殊な環境がありふれてしまっているということになり、その環境に内包されたものははっきりと特殊な存在なのである。だからこそ彼らは、ロボットは道具と言い切るDr.クエーサーを理解しきれないのだし、彼の理解によるAナンバーズ像というものを認めなかったのだろう。その価値観の対立が結局満足に描かれないままに終わった事がやはり残念でならない。クオンタム・クオータの行動は単に狂ったという判断しかされなかったし、最後は勝手にDr.クエーサーを悪者に仕立て上げて解決してしまったのである。
出てくるヒューマンフォームロボットがことごとく美形で、女性読者の人気が高く、下手をするとガンガンに最初に婦女子を呼び込んだ作品とか言われかねないのだが、あの時代はまだ少年漫画然としていたマンガが多く連載されていた頃でもあり、それほどの事もなかったのだろうか。
現在朝日ソノラマから文庫版が刊行されている。前半の設定で矛盾が大きかったエララの設定などは変えられてしまっているようである。
なお、この作品は途中でメカニック設定でデザイン協力として白石琴似氏(メカニック描写に定評があり、ちょっと前にエルガイムのコミックを描いていたり、最近では劇場版Zのコミカライズを手がけていた)がクレジットされていた時期があった。コミックスでは7巻から10巻がそれに当たるが、「ツインシグナルブック アトランダムファイル」のインタビュー記事には以下のような発言が見られる。
大清水「デザインの方は、私はちょっと機械類が描けない身体ですので(笑)。ロボットデザインとか、すべて白石琴似先生にお任せしています。はい、どうぞ」
白石「白石琴似と申します。アシスタントとしては一応、メカ関係の背景とトーンワークを担当しています」
「ツインシグナルブック アトランダムファイル」P50(エニックス)
同書がリリースされたのは丁度コミックで7巻が出た頃であるのだが、アシスタントという表現も見られるように白石琴似氏がかなり以前からTWIN SIGNALという作品に関与していた事が窺われる。実際同書中に収録されている白石氏の舞台裏マンガではパルスのデザインを提案している様子が描かれているので2巻が出る前からという事になるし、[ろぼっとたんとー]という肩書きを見るに1巻に登場したクリスのセリオンなんかも担当したんではないかと思われる。11巻以降クレジットが消えた事情については関知しないが、これと前後して小説版で設定に関わる話が多く語られるようになった事は看過できないかと思われる。後に出た「ツインシグナルブック2 PERFECT FILE OF ATRANDOM」において白石氏の名前は一切出て来ず、ノベライズを手がけた北条風奈氏が大きく関与している様子が窺われる。誠に奇妙な符合ではあろう。
作者大清水さちと小説版作者北条風奈による同人活動については触れないほうが無難なので触れない事にしておく。個人的な意見を言わせていただくならば、その当時は私自身が同人誌などに興味を持っていなくて、同人イベントなどに出かけるようになったのは完全にTWIN SIGNALに対しての熱が冷めた後であると言うのは幸運な事だったと思っている。リアルタイムで追いかけられたらどうにもならなかったかも知れない。
ということで、このお二人の同人誌は持ってない。内容についても直接確認できないので触れない事にする。そっちの話が公式のストーリー展開にも影響したとも言われているが、当時雑誌連載を追いかけているだけだった私の印象ではそういったことは無いと判断している。
なお、大清水さちはTWIN SIGNAL連載中にGファンタジーにマリオノール・ゴーレムを連載していた。また、TWIN SIGNALの連載終了後にはGファンタジーにおーべるじゅ・ろわぞぶりゅという作品を連載したが、短い連載に終わっている。これらについてはGファンタジーを取り上げるフェイズで取り上げる事にしよう。