アイスドールをきっかけに泥縄的に血統の話 1
アイスドール: キャプテンスティーヴ - ビスクドール by サンデーサイレンス
キャプテンスティーヴはドバイWCの勝ち馬。そのとき2着に下したのがトゥザヴィクトリー。そしてビスクドールはトゥザヴィクトリーの全妹。ビスクドール自身は未勝利のまま繁殖入りとなっていますが、血統的背景から期待を受ける繁殖牝馬であったのは間違いないでしょう。当時の社台グループはサンデーサイレンスの次を担う種牡馬を試行錯誤している段階であり、ノーザンファームにおいてはフレンチデピュティとクロフネの親仔がその期待を集める存在でした。
事実ビスクドールの母フェアリードールには後にフレンチデピュティが、姉トゥザヴィクトリーにはオーナーの期待のもとクロフネが配されてましたし、後にはフォーティナイナーという選択もありました。そしてこのアイスドールの半妹はクロフネ産駒です。
こういった血統でありながらビスクドールの初年度の相手にそういった種牡馬よりもその年が種付け初年度であったキャプテンスティーヴが選ばれたことにはドバイWCの結果を考慮された部分が少なからず存在するでしょう。そして産まれたアイスドールはキャプテンスティーヴにとっても最良の血統背景を有し、キャプテンスティーヴが種牡馬として成功するかどうかの鍵を握ることになってもおかしくない存在となりました。
Captain Steve: Fly So Free - Sparking Delite by Vice Regent
Captain Steveは2歳から重賞に顔を出していた存在でBC Juvenileは11着に敗れますが、その後Hollywood Futurity Sを勝っています。しかし、3歳になってからは今ひとつ足りない結果が続き、Kentuckey DerbyではFusaichi Pegasusの8着に終わりました。その後のPreakness Sでは4着に終わってBelmont Sはスキップ。相手関係の楽なIowa Derbyを選んで出走して勝つと、そこから本格化してSwaps Sも勝って連勝。その後は安定した結果を残せるようになり、BC前哨戦のGoodwood BCHではTiznowを相手に好勝負をして見せて、BC Classicでは人気薄ながら3着に食い込みました。明け4歳初戦のDonn Hを快勝して北米のエースとしてドバイに参戦。一番人気を背負い、直線でTo the Victoryを軽くかわしたこのレースこそが彼の競争生活におけるハイライトとなりました。その後はドバイ遠征馬の不振の例に洩れず、復帰戦のStephen Foster Hこそ2着に入りますが、Pacific Classicを最後に引退しました。その後JRAによって購入され、JBBA供用種牡馬となり、結果初年度産駒として53頭の産駒を誕生させることになりました。Damascusによって再興されたTeddyのラインであり、このDamascus系の種牡馬をサンデーサイレンスと組み合わせるという配合はエイシンワシントンを有するエイシンの手によって幾度か試みられエイシンヘーベという馬を出しました。その絶対数を考慮するとまず悪くないというレベルの配合にはなるでしょうか。
Captain Steveは祖父Time For a ChangeがGrey Flight一門の出身であるという程度にしか目立つところの無い血統で、牝系も祖母が5勝を挙げる活躍馬だったのが目立つ程度。それでもその活躍でVice Regentを捕まえることができたのだから十分か。
5代内のクロスはNative Dancer4x5、Bold Ruler5x4、Nasrullah5x5、My Babu5x5。Native Dancerは父Fly So Freeの牝系とNorthern Dancer経由。Bold RulerはReviewerとJacinto。NasrullahはBold RulerのものとNashuaの仔Stevward。My BabuはDamascusの母父とCrozier。北米の馬としてはMy Babuをクロスしているのが珍しいが、Crozier経由ならそこそこ見かけるかなという入れ方でしょう。 牝系は少し遠いところでAffiliateやProud Delta、Indy Five Hundredなどが出ており、フサイチエアデールもその近親にあたります。しかしCaptain Steve自身の累代はEight Thirty、Crozier、Jacinto、Vice Regent、Fly So Freeと一流とは言い切れないレベルです。
父Fly So FreeはBC JuvenileとFlorida Derbyを勝ち、5歳まで活躍しました。Sun AgainとNasrullahをそれぞれ5x4で持ちます。だが、Captain Steveを出したもののそれ以外では上級産駒はほとんど出せず、種牡馬としては失敗といわれても仕方ないレベルでしょう。
Teddyと9号族
20世紀に入って急速に発展した9号族は主に9-c族と9-e族の諸系統に分けられ、9-eから派生したのが9-f、9-g、9-hとなります。とは言うものの、最近のミトコンドリアDNAの研究によって本当の9号族はMaid of Nashamから派生する9-e族諸流であって、9-cの方は12号族と共通しているという結果が出ているようではあります(参照: Who's Your Momma III: Some Lines Misplaced by Thoroughbred Heritageの300 Year Old Mysteries)。追試されたという話は聞かないのでどこまで信頼してよいか分かりませんが、General Stud Boolの成立過程やその当時の命名則を考えれば、当然そういうことは起こりえるでしょうという感じであって、所詮ファミリーナンバーってのはインデックスですからね言っておけば良いかなと。いくらデンパな私でも9-fと9-cを同じように扱いやしないわけですし。それに9-cの方だって面白いことは面白いわけで、ラベリングと考えておけば問題なかろうねと。そのMaid of Mashamを始祖とするのが9-e族で、そのMaid of Mashamの娘Toxophilite Mareが9-f、同じく娘Young Melbourne Mareが9-g、孫娘Adelaideが9-hの祖となります。Maid of Mashamが1845年産で、19世紀後半にこういった展開を見せ、20世紀に入る頃には9-e族からCyllene、Fair Play、Friar Rockといった種牡馬を出しています。またZaribaやSaint Astraなどが次々と現れて大きく発展しました。
Teddy系の主な種牡馬でこの9-e族系統に所属するのはAsterus、Abjer、Bull Lea、Sun Again。Asterusは9-f族のAstrellaを母に持ちます。Abjerの母は9-e族の名牝Zariba。Bull Leaは9-f族のRose Leaves、Sun Againも同じく9-f族のHug Againを母に持っています。その辺の牝系図を2つばかし。
|Teddington Mare (1855 by Teddington)
||Adelaide (1866 by Young Melbourne) 9-h
|Young Melbourne Mare (1857 by Young Melbourne) 9-g
|Toxophilite Mare (1861 by Toxophilite) 9-f
|Faraway (1866 by Young Melbourne)
||Lands End (1873 by Trumpeter)
|||Distant Shore (1880 by Hermit)
||||Arcadia (1887 by Isonomy)
|||||Cyllene (1895 by Bona Vista)
|Lady Masham (1867 by Brother to Stafford)
||Pauline (1883 by Hermit)
|||Dame Masham (1889 by Galliard)
||||Fairy Gold (1896 by Bend Or)
|||||Fair Play (1905 by Hastings)
|||||Frair Rock (1913 by Rock Sand)
|||||St. Lucre (1901 by St. Serf)
||||||Zariba (1919 by Sardanapale)
|||||||Abjer (1933 by Asterus)
|Stella (1879 Brother to Stafford)
||Astrology (1887 by Hermit)
|||Saint Celestra (1897 by St. Angelo)
||||Saint Astra (1904 by Ladas)
|||||Diavolezza (1911 by Le Sagittaire)
||||||Farizade (1921 by Sardanapale)
|||||||Kassala (1926 by Cylgad)
||||||||Chevelerie (1933 by Abot's Speed)
|||||||||Prince Chavelier (1943 by Prince Rose)
|||||Astrella (1912 by Verdun)
||||||Asterus (1923 by Teddy)
|||Star Shoot (1898 by Isinglass)
|Black Star (1880 by Forerunner)
||The Apple (1886 by Hermit)
|||Thankful Blossom (1891 by Paradox)
||||Colonial (1897 by Trenton)
|||||La Venganza (1902 by Abercorn)
||||||Nellie Morse (1921 by Luke McLuke)
|||||Rose Leaves (1916 by Ballot)
||||||Bull Lea (1935 by Bull Dog)
|||One I Love (1893 by Minting)
||||Affection (1914 by Isidor)
|||||Escutcheon (1927 by Sir Gallahad)
||||||Strange Device (1938 by Stimulus)
||||||Demoliton (1940 by Foray)
||||||Bourtai (1942 by Stimulus)
|||||||Delta (1952 by Nasrullah)
|||||||Levee (1953 by Hill Prince)
|||||||Bayou (1954 by Hill Prince)
|||||Hug Again (1931 by Stimulus)
||||||Sun Again (1939 by Sun Teddy)
その話は次回として、ここはまず、Strange DeviceとSun Again双方に入っているStimulusの血統はかなり面白い。父Ultimusは19世紀後半に発展したアメリカンスピードの体現者Dominoが2x2で入る近親交配馬。母HurakanにもLeamingtonとStockwellのクロスがあり、米血として見るならばこのLeamingtonもDominoとの関係もあって注目に値します。また、母父Uncleの父であるStar Shootは9-f族出身で、最初のアメリカ三冠馬Sir Bartonの父として知られています。なお、Sir Bartonは9-g族です。
Strange Deviceの母父はSir Gallahadということになりますので、Strange DeviceとSun AgainはともにStimulusとTeddy系の種牡馬の組み合わせということになります。Strange Deviceの全妹であるBourtaiはLeveeを筆頭にDelta、Bayouを出した超級の名牝で、LeveeとDeltaがBroodmare of the Yearを獲得し、直仔の成績は振るわなかったBayouは3歳女王でした。これに彼女らの半姉Bantaを合わせてそれぞれが牝系を大きく発展させています。
Strange Deviceの方は代が進みLikely Exchangeに及んで再び表舞台に現れています。この牝系はHyperionを継続的にクロスさせているのですが、父HaloがBlue Larkspurのクロスを持ち、母父のUnderstandingはSun Againの傍流で、母系にはBull Leaを持つ血統のサンデーサイレンスによって血統の奥深くに眠っていたこのTeddyやDominoを刺激されたと言えるでしょう。サンデーサイレンスの場合は祖母Montain FlowerがHyperionを持つ事もあり、Fairy Dollに対して相性が良いのも当然といえるでしょう。そしてCaptain SteveはSun Againの直系としてその流れを受け継ぐ格好です。累代のEight Thirtyも強力な血統背景を持っています。
こんなところで次回はDamascusを取り上げる予定。